不動産投資について調べていると頻繁に出くわす「レバレッジ効果」という言葉。
前後の文脈からなんとなく意味は察しているけど、詳しいことはあまり……となってはいませんか?
レバレッジ効果は、不動産投資の収益性向上に大いに役立つものです。
具体的な事例を見てみれば、その効果のすごさをご実感いただけるかと思います。
しかし、甘い見通しでレバレッジを効かせようとするとキャッシュフローが悪化し、思わぬ損失を抱えてしまう恐れがあります。
この記事では、
について解説します。
「レバレッジ(leverage)」とは、「てこの原理(作用)」を意味する英単語です。
てこの原理を使えば「小さな力で大きな効果を得る」ことができます。
経済活動におけるレバレッジ効果も「小さな力(資本)で大きな効果(利益)を得る」ことを指し、「他人資本を活用することで、自己資本に対する利益率を高める作用」を意味します。
これを不動産投資面で具体的に説明すると、「不動産投資ローン(他人資本)を活用してグレードの高い不動産を購入し、収益性を向上させ、自己資本に対する利益率を高める」ことがレバレッジ効果(あるいはその目的)であると言えます。
レバレッジを効かせて投資できることは、不動産投資ならではの大きなメリットです。
なぜなら、原則として目的ローン(※)やフリーローンの借入金を投資に回すことは禁止されており、株式投資や投資信託でレバレッジ効果を高めることは困難であるためです。
※目的ローン:借入金の使用用途が限定されているローン(住宅ローンなど)のこと
用途の自由度が高いカードローンであれば投資への利用も可能ですが、
などの理由から、カードローンを利用してまでレバレッジ効果を高めることはあまりおすすめできません。
一方で、不動産投資には「不動産投資ローン」があり、不動産投資に適した条件や制度が整っているため、レバレッジを効かせた投資がしやすいのです。
レバレッジ効果がいかに不動産投資の収益性向上に役立つか、具体的な事例をもとに見ていきましょう。
たとえば、「自己資金:1,000万円で、利回り:10%の収益物件を購入する」としましょう。(修繕費などの諸経費は考慮しないこととする)
レバレッジを効かせない(不動産投資ローンを利用しない)場合の年間収入は以下のとおりです。
購入可能な物件価格 = 自己資金のみ =1,000万円 年間の家賃収入 = 物件価格:1,000万円 × 利回り:10% =【100万円】= 年間収入 |
一方で、2,000万円(金利:3%)で不動産投資ローンを借り入れ、レバレッジを効かせた場合は以下のようになります。
購入可能な物件価格 = 自己資金:1,000万円 + 借入金:2,000万円 = 3,000万円 年間の家賃収入 = 物件価格:3,000万円 × 利回り:10% = 300万円 年間の利息額(初年度、概算)= 借入金:2,000万円 × 金利:3% =60万円 年間収入 = 年間の家賃収入:300万円 - 年間の利息額:60万円 =【240万円】 |
※返済したローン元本は自己の資産となり利益となるため、元本返済額は計算に含まない
利回りはどちらも10%ですが、レバレッジを効かせた場合のほうが年間収入が140万円も多く、自己資本に対する収益率(年間収入 ÷ 自己資金:1,000万円)も24%に向上することがお分かりいただけたかと思います。
少ない自己資金で高いリターンが期待できるレバレッジ効果ですが、残念ながらメリットばかりではありません。
要点を押さえておかないと収益性が著しく悪化し、ローン返済が滞ってしまう恐れもあるため、以下の点に注意しましょう。
逆レバレッジとは、「収益性を高めるためにお金を借りたにも関わらず、逆に収益性が悪化してしまった状態」を指します。
逆レバレッジに陥る原因として、以下の2点が考えられます。
逆レバレッジに陥ると収益性がどうなるのか、先程例示した「自己資金:1,000万円で、利回り:10%の収益物件を購入する」を元にしつつ解説していきます。
レバレッジを効かせない場合・効かせた場合の年間収入は、それぞれ以下のとおりでしたね。
■レバレッジを効かせない場合: 年間収入 = 物件価格:1,000万円 × 利回り:10% =【100万円】 ■レバレッジを効かせた場合:(金利:3%で2,000万円を借り入れ) 年間収入 = 年間の家賃収入:300万円 - 年間の利息額:60万円 =【240万円】 |
まずは「1)金利が高く、利息支払額がかさんでしまう」ケースを見てみましょう。
物件価格や利回りは据え置きで、金利のみ「3% → 11%」に変更して計算してみましょう。
レバレッジを効かせた場合の年間収入は以下のようになり、自己資金のみで投資した場合の年間収入(100万円)を下回ってしまいます。
■レバレッジを効かせた場合: 年間の利息額(初年度、概算)= 借入金:2,000万円 × 金利:11% = 220万円 年間収入 = 年間の家賃収入:300万円 - 年間の利息額:220万円 =【80万円】 |
もっとも、ここまで金利が高騰することはまずありえませんが、変動金利の場合は金利上昇リスクにも注意を払わなければなりません。
続いては「2)利回りが低い」ケースです。
物件価格や利息などは据え置きで、利回りのみ「10% → 2.5%」に変更して計算すると、それぞれの年間収入は以下のようになります。
■レバレッジを効かせない場合: 年間収入 = 物件価格:1,000万円 × 利回り:2.5% =【25万円】 ■レバレッジを効かせた場合: 年間の家賃収入 = 物件価格:3,000万円 × 利回り:2.5% = 75万円 年間収入 = 年間の家賃収入:75万円 - 年間の利息額:60万円 =【15万円】 |
この場合も、自己資金のみで投資した場合の年間収入を下回ってしまいます。
どちらのケースにおいても「利回り < 金利」となったことで逆レバレッジに陥り、借り入れすることによって収益性が悪化していることがお分かりいただけましたでしょうか。
この「利回りと金利の差(利回り - 金利)」は「イールドギャップ」と呼ばれ、不動産投資の収益性と返済のバランスを見る指標として活用されています。
イールドギャップは「利回り - 金利」で算出されると紹介しましたが、算出の際には、
の2点が極めて重要となり、これを加味せずに単純計算で済ませてしまうと失敗につながる恐れがあります。
一般的に、不動産投資における「利回り」は、年間の家賃収入を物件価格で割り返しただけのシンプルな「表面利回り」を意味しています。
しかし、現実に得られる年間家賃収入は空室率によって大きく左右され、さらにそこから修繕費や管理費などの諸経費もマイナスされます。加えて、物件購入時には仲介手数料や税金などの諸費用も発生します。
「実質利回り」はこうした空室率や諸経費などを加味して算出するため、表面利回りよりもずっと低くなる傾向にあります。
「表面利回りでイールドギャップを計算したらプラスだったので大丈夫だと思ったけど、実質利回りで計算したらマイナスだった……」とならないためにも、表面利回りと実質利回りの違いを理解し、必ず実質利回りでイールドギャップを考えるようにしましょう。
不動産投資ローンの金利が同じであったとしても、融資期間が異なれば「年間の利息返済額」が変わります。
年間の利息返済額が多いと、仮にイールドギャップ自体がプラスであったとしても、キャッシュフローが悪化してしまう恐れがあります。
融資期間が短ければ短いほど年間の利息返済額も高額になるため、時間の概念にも注意が必要です。
実質利回りを元にイールドギャップを計算していたとしても、現実の利回りが期待値を下回ってしまう可能性はゼロではありません。
住民トラブルが続いて空室率が上昇したり、事故や災害で高額な修繕費が必要となることも大いにあり得ます。
さまざまな要因を考慮したシミュレーションを作成することはもちろんですが、利回りが期待値を下回り、キャッシュフローが悪化した場合でも返済に支障が出ないよう、自己資金に余裕を持たせて臨むことが重要です。
借主の属性や物件の収益性などを審査した結果、そもそもローンが下りない可能性もあります。
レバレッジ効果を高めようとして借入限度額ギリギリを狙う、フルローンを利用するなどの場合はより審査基準が厳しくなり、融資してもらえないことも……。
レバレッジを効かせた投資は魅力が大きいですが、大前提として「無理のない返済プラン」を立てることが大事です。
また、空室率や突発的な出費も加味した綿密なシミュレーションを立てて、キャッシュフローが出るかどうかをしっかり確認してから臨むようにしましょう。